【非エンジニア向け】AI vs ルールベース:中小企業が知っておくべきチャットボットの種類と選び方
チャットボットは、顧客対応や社内業務の効率化に貢献する強力なツールとして、多くの企業で注目されています。特に、限られたリソースの中で業務改善を目指す中小企業にとって、その導入は大きなメリットをもたらす可能性があります。
しかし、「チャットボット」と一言でいっても、その種類は様々です。大きく分けて「ルールベース型」と「AI型」の二種類があり、それぞれに得意なことや適した使い道が異なります。どちらを選ぶべきか迷ってしまう担当者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
本記事では、AIやIT技術に関する深い知識がないビジネスパーソンの方向けに、ルールベース型とAI型チャットボットの違いを分かりやすく解説し、貴社に最適なチャットボットを選ぶためのポイントをご紹介します。
チャットボットの二つのタイプ:ルールベース型とAI型
チャットボットは、ユーザーからの質問や入力に対して自動で応答するシステムです。その応答の仕組みによって、主に以下の二つのタイプに分けられます。
ルールベース型チャットボット
ルールベース型チャットボットは、事前に設定された「ルール」や「シナリオ」に基づいて応答を行います。例えば、「〇〇という質問が来たら、△△と答える」といったルールや、「サービス内容に関する質問の場合は、まずAという選択肢を示し、Aを選んだらBという情報を提供する」といった応答のフロー(シナリオ)を人間が定義します。
- 仕組みのイメージ: 辞書とフローチャートを組み合わせたようなものです。登録されたキーワードやフレーズに一致するか、または特定の質問フローに沿って応答を返します。
- メリット:
- 導入が比較的容易: 専門的な技術知識があまりなくても、FAQや対応フローを用意すれば比較的短期間で導入できます。多くのサービスで、管理画面から直感的に設定できます。
- コストを抑えやすい: AI型に比べて開発・運用コストが低い傾向にあります。
- 応答が正確: 定められたルール通りに正確な情報を返すため、誤った情報を伝えるリスクが低いと言えます。
- デメリット:
- 柔軟性に欠ける: 事前設定されたルールやシナリオ以外の質問には対応できません。ユーザーが少し違う言い回しをしたり、想定外の質問をしたりすると、「分かりかねます」といった応答しかできなくなることがあります。
- メンテナンスに手間がかかる: 対応できる質問の幅を広げるには、その都度ルールやシナリオを追加・更新する必要があります。FAQの量が増えると管理が煩雑になります。
- 複雑な問い合わせに対応できない: 複数の質問が混ざった問い合わせや、文脈を理解する必要がある問い合わせには対応が困難です。
AI型チャットボット
AI型チャットボットは、AI(人工知能)の技術、特に自然言語処理(NLP:Natural Language Processing)を活用して、ユーザーの質問の意図や文脈を理解し、適切な応答を生成します。事前に設定されたルールだけでなく、大量のデータから学習することで、より人間らしい柔軟な対話を目指します。
- 仕組みのイメージ: ユーザーの言葉を「理解」しようとし、その意図に合わせて最適な情報を「判断」して返答するイメージです。学習データに基づいて応答パターンを生成することもあります。
- メリット:
- 柔軟な対応が可能: ユーザーの多様な言い回しや、ある程度複雑な質問にも対応できます。文脈を考慮した応答も可能です。
- 学習による精度向上: 利用されるほど、あるいは追加のデータを学習させることで、応答精度を高めることができます。
- 未知の質問にも対応できる可能性: 事前設定にない質問でも、学習データから関連性の高い情報を提示できる可能性があります。
- デメリット:
- 導入・運用にコストがかかる: 高度な技術を利用するため、ルールベース型に比べて導入費用や月額費用が高くなる傾向があります。また、AIの学習やチューニングに専門知識が必要な場合もあります(近年は非エンジニアでも扱いやすいサービスも増えています)。
- 応答の制御が難しい場合がある: 学習データによっては、想定外の応答をすることがあります。不適切な回答をしないよう、運用中の監視や調整が重要になります。
- 導入に時間がかかる場合がある: データの準備や学習に時間がかかることがあります。
中小企業が自社に最適なチャットボットを選ぶためのポイント
ルールベース型とAI型、それぞれに特徴があることをご理解いただけたかと思います。それでは、貴社にはどちらのタイプがより適しているのでしょうか。選定の際には、以下の点を考慮することをお勧めします。
1. 導入目的と解決したい課題を明確にする
最も重要なのは、なぜチャットボットを導入したいのか、どのような課題を解決したいのかを具体的にすることです。
- 定型的な問い合わせ対応を自動化したい: 「営業時間」「定休日」「アクセス方法」「支払い方法」といった、よくある質問への回答を効率化したい場合は、ルールベース型でも十分に効果を発揮する可能性があります。
- 顧客満足度を向上させたい: 24時間365日、ユーザーの様々な質問にストレスなくスムーズに対応できるようにしたい、より自然な対話で顧客体験を高めたい場合は、AI型が有力な選択肢となります。
- 社内からの問い合わせ対応を効率化したい: 人事・総務関連の定型的な質問対応であればルールベース型、多様な質問やちょっとした疑問にも対応させたい場合はAI型が考えられます。
2. 予算と運用体制を考慮する
チャットボットの導入には、初期費用、月額利用料、そして運用・メンテナンスに関わる人的コストがかかります。
- 予算が限られている場合: まずはコストを抑えられるルールベース型からスモールスタートするのも良いでしょう。
- 運用にかけられる人員・スキル: ルールベース型は事前の設定とFAQの更新が主な作業ですが、AI型は精度向上のためのデータ投入や調整が必要になる場合があります。社内のリソースやITスキルレベルに合わせて、運用負担の少ないサービスを選ぶことも重要です。外部のベンダーに運用を委託することも可能です。
3. 想定されるユーザーの質問内容や量を考える
チャットボットが対応するユーザーの質問が、どれだけ多様で複雑になるかを予測します。
- 質問が定型的でパターンが決まっている: FAQの内容が整理されており、その範囲内の質問が多い場合は、ルールベース型で十分対応できることが多いです。
- 質問内容が多岐にわたり、言い回しも様々: ユーザーが自由な言葉で質問する場面が多い、あるいは複雑な問い合わせが想定される場合は、AI型の方がスムーズな対応が期待できます。
4. 必要な機能を検討する
チャットボットサービスによって提供される機能は異なります。
- 必要な連携機能: 社内のデータベースや既存システム(顧客管理システム、予約システムなど)との連携が必要か。
- 有人対応への切り替え: チャットボットで解決できない場合に、オペレーターへスムーズに引き継ぐ機能が必要か。
- 分析機能: どのような質問が多く寄せられているか、チャットボットで解決できた割合はどのくらいかなどを分析する機能が必要か。
これらの機能をリストアップし、それぞれのタイプやサービスが対応しているかを確認します。
スモールスタートも検討を
中小企業にとって、未知の技術に多額の投資をすることはリスクを伴います。まずは特定の部署や限定的な用途でルールベース型チャットボットを導入し、その効果を検証してみる「スモールスタート」も有効な戦略です。そこで得られた知見や成果を基に、より高度なAI型チャットボットの導入や、適用範囲の拡大を検討していくこともできます。
多くのチャットボットサービスでは、無料トライアル期間や、機能を限定した安価なプランを提供しています。まずはそうしたサービスを活用して、実際に使い勝手や効果を試してみることをお勧めします。
まとめ
本記事では、チャットボットの主要なタイプであるルールベース型とAI型の違い、そして中小企業が自社に最適なチャットボットを選ぶためのポイントを解説しました。
| 特徴 | ルールベース型チャットボット | AI型チャットボット | | :---------- | :------------------------------------------------ | :------------------------------------------------------ | | 仕組み | 事前設定ルール・シナリオに基づく | AI(自然言語処理)による意図理解と応答生成 | | 得意 | 定型的な質問への正確な応答、FAQ対応 | 多様な質問への柔軟な対応、文脈を考慮した対話 | | 導入 | 比較的容易、短期間、低コスト | 導入に専門知識やデータが必要な場合も、コストは高め | | 運用 | ルール・シナリオの追加・更新が必要 | 学習・チューニングが必要な場合も、利用で精度向上 | | 柔軟性 | 低い(想定外の質問に弱い) | 高い(ある程度多様な質問に対応) |
どちらのタイプを選ぶにしても、最も大切なのは「何のために導入するのか」という目的意識をしっかりと持ち、自社の現状やリソース、そしてユーザーのニーズに合わせて検討を進めることです。
チャットボットは、正しく活用すれば業務効率を大幅に向上させ、顧客満足度を高める強力な味方となります。本記事が、貴社のチャットボット導入検討の一助となれば幸いです。